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偏微分方程式シリーズI 熱伝導方程式・拡散方程式

(Ⅰ)熱伝導方程式

断面積 S、長さ l、密度 ρ、比熱 cの一様な棒に沿って x軸を取り、時刻 tのときの点 xにおける棒の温度を u(x, t)とする。

1次元熱伝導方程式

ただし、 \kappa=\frac{熱伝導率}{cρ}*2

 

(Ⅱ)拡散方程式

物質は濃度の高い方から低い方へと拡散する。物質の濃度or粒子密度を u(x, t)とする。単位時間当たりの拡散量 \frac{\partial u}{\partial t}は濃度勾配変化 \frac{{\partial}^{2}u}{\partial x^2}に比例するから

拡散方程式
 \frac{\partial u(x, t)}{\partial t}=D\frac{{\partial}^2 u(x, t)}{\partial x^2}

ただし、 D: 拡散係数

 

熱伝導方程式・拡散方程式は xについては2階の偏微分であるのに対し、 tについては1階の偏微分であることから非対称であり、熱・濃度は時間とともに一方向に移っていく不可逆な反応であることを説明する。また、まだ内容までは分からないが、1981年の論文*3では、コンクリート中の乾燥に伴う水の移動も、いくつかの仮定の上で熱伝導方程式・拡散方程式で表されるとされている。しかし、1994年の論文*4では、水の蒸発熱によって起こる温度変化およびそれにともなう熱移動と、乾燥面の温度変化によって起こる蒸発速度の変化を考慮し、水分移動が2つの非線形偏微分方程式で表されるとのこと。

 

今回は棒の両端温度が常に 0であるとする。

変数分離解 u(x, t)= X(x)T(t)があると仮定して熱伝導方程式に代入する。

 X(x)T’(t)=\kappa X”(x)T(t)

 \therefore \frac{1}{\kappa} \frac{T’(t)}{T(t)}=\frac{ X”(x)}{X(x)}

分離定数を -λ^2*5とおき、 T Xについての常微分方程式を解く。

 T(t)=Ae^{-λ^2\kappa t},  X(x)=B\cosλx+C\sinλx (A, B, C: 任意定数)

 \therefore u(x, t)=e^{-λ^2\kappa t}(B\cosλx+C\sinλx)

 \kappa >0としているので、 t \to \infty T \to 0となる減衰解(平衡状態に近付く解)を表し、  X(x)は周期 \frac{2\pi}{λ}の周期性を示している。

境界条件から  X(0)=B=0, X(l)=C\sinλl=0

 C\neq0を仮定しなければならないから \sinλl=0より λl=n\pi 

 \therefore λ=\frac{n\pi}{l}\equiv λ_n

固有値 λ_nに対応する固有関数解 u_nを次のように与える。:

 u_n=\exp(-\kappaλ_n^{2}t)\sin λ_{n}x

熱伝導方程式は線形微分方程式だから無限級数

 u(x, t)={\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_n exp(-\kappaλ_n^{2}t)\sin λ_{n}x} \\(a_n: 任意定数)

も解としてもつことになる。

初期条件(初期温度分布)を u(x, 0)=\varphi(x)

とおくとして

 u(x, 0)={\displaystyle \sum_{n=1}^\infty a_n \sin λ_n x}=\varphi(x)

これは \varphi(x)フーリエ正弦級数展開のため

 a_n=\frac{2}{l}\int_{0}^{l}\varphi(x)\sin\frac{n\pi x}{l}dx*6

 

渋谷仙吉. 内田伏一. 偏微分方程式(物理数学コース). 裳華房. 2010

*1:渋谷仙吉. 内田伏一. 偏微分方程式(物理数学コース). 裳華房. 2010. pp.65-66

*2: \kappaは「カッパ」と読むギリシア文字。また、熱伝導率は物質によって定まる。

*3:阪田憲次. 蔵本修. 乾燥に伴うコンクリート中の水分の逸散と乾燥収縮に関する研究. 1981 阪田先生は土木学会の会長を務めた方

*4:秋田宏. 藤原忠司. 尾坂芳夫. 乾燥を受けるコンクリート中の水分移動を解析する手法. 1994

*5: λ^2とおくと t \to \infty T \to\infty;  |x| \to \infty |X|\to\inftyというように物理的に意味のない解が導かれる

*6:石村園子. やさしく学べるラプラス変換フーリエ変換. 2010. p.126